「ポツンと一軒家」に学ぶプロジェクトマネジメント
(手前に供養碑、右奥に魔女の森)
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■ 雑感
長くなっているのでそろそろまとめを・・・。
ここまで読んでいただいて、もしこの事件について、こちらのブログ記事をもとに考察してみたいと思われた方がいらっしゃるとすれば、それは是非やめていただいて、できればやはり、ヒンターカイフェックネットとかの、大元の情報を当たっていただくことをお勧めします。
というのは、大元のほうが情報量が多いですし—たぶん100倍とか200倍とかいった生やさしいものではなく、話にならないくらい圧倒的に多い—こちらのブログはその大元からどうにかこうにかここまで圧縮しましたという程度のもので、
しかも例えば、この事件においてある出来事を経験した本人と他の証人たちの証言とに日時その他の点で食い違いがある場合、状況的に見て後者が正確だと感じた場合は—特にそれが警察による報告とも一致していればなおのこと—本人の証言をボツにして他の証人たちの証言を採用してエピソードを構成するといったこともしており(書き手による情報の取捨選択)、
そういったものを前提に事件を考察するのは間違いのもとだと思うので、妄想程度のものは別として、あくまで本格的に考察してみたいという方は、是非、取捨選択されないままの情報がすべて載っている大元のほうを当たってみていただければと。
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さて犯人像について妄想してみると、家中を捜索した結果、残されていた紙幣は祈祷書に挟まれた5マルク紙幣一枚きりだったであるとか、
複数人が寝ていたとも見える藁床があったといったことから、この事件は「複数犯による強盗殺人」ではないか、
そしてその犯人像としては、瓦をずらして見張り穴を作ったり、納屋の梁に藁縄を結んで脱出方法まで確保しておくなど、
見ようによっては家屋を前線の観測所のように仕立てていることからも、第1次世界大戦の前線経験者ではないかという印象を抱いたものの、
「数日間現場にとどまっていた様子がある = 流れ者だったか、ある程度遠方にある普段の居場所から出張してきていたから」
「家畜に餌を与えていた可能性が高い = 家畜に愛情を持っていたとか後々のための保全を考えていたとかではなく、飢えにより大声を上げさせないようにするため」
「遺体を藁や戸板、布団などで覆っていた = 被害者と面識があったからではなく、単に数日間現場に居座ろうとしていた犯人にとっては目障りだったから」
などでとりあえずの説明をつけるとしても、
流しかよそ者による強盗殺人というにしては、ヴィクトリアの寝室に残されていた結構な額の金貨や銀貨、そして丁寧に隠されていたという屋根裏床下の凶器(つるはし)のことが引っ掛かるというのも確かだった。
そこで怨恨の線を考えてみるとすると、最も怪しいのは、やはりシュリッテンバウアーかと。
一時期、露骨すぎるほどにグルーバー家と揉めていたのは彼だった。
しかし彼は2歳ヨーゼフのことで、認知はしたものの、養育費などは一銭も支払っていなかったというし(彼の懐はまったく痛んでなかった)、
彼自身も1921年に再婚して子供たちもおり、経済的には順調で、村では自治会長的なポジションにあり、確かに口さがない村人たちから、
「2歳ヨーゼフの本当の父親は祖父のアンドレアスだ。しかし認知はシュリッテンバウアーがしたそうだ」
などと陰口を叩かれる腹立たしさはあったと思われるものの、
それがグルーバー家を皆殺しにしたいほどの激烈な思いに転化するものだろうかというと「?」な感じがするのだった。
そもそも狭い集落内でそれ(一家皆殺し)をやってしまうと、露骨に、真っ先に疑われるのは間違いなく彼だと思われるところ、
本当にやってしまうものだろうか?という疑問もあった。
それとも、事件直前に再婚後の最初の娘が生後約1か月で百日咳で死亡し、その衝撃から通常の精神状態ではなくなっていたとか、
これも事件直前にヴィクトリアが養育費を支払おうとしないシュリッテンバウアーに対して訴訟を準備していたとか(訴訟云々は事件後約30年してからジーグルが持ち出した噂話だが)、
もしこういった噂話が事実であったとして、訴訟を起こされそうになっていることがシュリッテンバウアーの耳にも入っていたのであれば、
その件でなにかしらグルーバー家(の納屋)でヴィクトリアと秘密の話し合いを持った際に、激昂してヴィクトリアの首に手をかけ(ヴィクトリアと72歳ツェツィーリアの両方または一方には首を絞められた痕が残っていた)、
もはや後に引けなくなり、咄嗟に目についたつるはしでとどめを刺し、残りの家族も同様に・・・ということは、あり得るかという気はする。
しかし仮に上のような経緯で突発的に殺害したのであれば、グルーバー家との一連の諍いを村中に知られており、真っ先に下手人として疑われるであろうシュリッテンバウアーの考えそうなことといえば、
「物取りに見せかける」
ことではないだろうか?
つまり戸棚から何から家じゅうをひっくり返し、書類はそこら中にまき散らし、紙幣も硬貨も宝石のたぐいもすべて奪い(不要ならあとで森に埋めるか川に捨てればよい)、
露骨に「物取り目的」の事件現場に見せかけることで、グルーバー家と遺恨のある自分への嫌疑を逸らそうと考えるのではないか・・・という気もするのだが、現場の様子は全くそうはなっていなかった。
明らかに物色の形跡が見られたのはヴィクトリアと子供たちの寝室のみで(しかもそれほど激しいものではなかった)、
居間兼グルーバー夫妻の寝室には物色の形跡は見られず(「その形跡が見られなかった」から「物色されなかった」ということにはならないとは思うが)、
メイド部屋でもマリアのリュックサックは開けられもせず西側の窓際に放置されていたのである。
物取りに見せかけようとしたというにしては、あまりに中途半
と思える現場の様子だった。
シュリッテンバウアーは遺体発見時も奇妙な落ち着きを見せており、このことも彼が疑われる一因となった。
しかし考えてみると、もし本当に彼が犯人なら、遺体発見時にはむしろショックで気絶して見せる・・・とまではいかないにせよ、
あからさまにうろたえて見せるとか、声をあげて泣いて見せるとか、その程度の演技をしてみせそうな気はするのだが、
彼には一切そんな様子はなく、あとで人々が訝しく思ったほどに落ち着いていたというのであり、この事実はどちらかというと彼の犯人性を否定する方向に働くのではないか、という気もする。
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仮の話として、シュリッテンバウアーが事件に何らかの形で関わっていたことを前提に、彼が遺体発見時に落ち着いていた理由を妄想してみると、
彼は、実は4月4日(火)にジーグルやペルと一緒に遺体を発見する前から、すでに一家全員が殺害されている事実を知っており、遺体を目にしていた可能性があるのではないかと。
つまりおそらく彼は4月4日以前に現場に入ったことがあったのであり、
そうなったそもそもの原因は、ヴィクトリアに対する彼の断ち難い思いだった。
彼は再婚後もヴィクトリアのことが気になっていた。
気になって仕方なかったのである。
再婚相手のアナは真面目でよく働く、できた女だったが—実際よくできたメイドのようだったという証言がある—シュリッテンバウアーの情熱を掻き立てるような魅力には不足しており、そういった意味で面白みには欠けた。
一方のヴィクトリアはといえば、日曜になるとヴァイトホーフェンの教会に現れ天使のような歌声を披露したかと思えば、
平素はポツンと一軒家のような場所に住み極力人と交わらず、実父とのよからぬ噂があるなどその暮らしぶりは暗い秘密に覆われており、(シュリッテンバウアーによれば)一度懇意になれば性的にも奔放な女だったのである。
しかも恋の終わりは第三者(アンドレアス)による強制終了だった。
シュリッテンバウアーの中では、ヴィクトリアへの思いがくすぶり続けていた。
そこで彼は、日中は野良仕事にかこつけてグルーバー家の農地や森に近いほうにわざと赴き、偶然を装ってヴィクトリアに会おうとしたであろうし、
夕方から夜にかけては、ちょっと用事のようなふりをして、グレーベルンからシュローベンハウゼンへと続く一本道をぶらついてみては、道の向こうからヴィクトリアが姿を現すことを期待したであろうし、
またその道からグルーバー家の台所の窓にともる灯りを見つめては、アンドレアスに邪魔されなければあり得たであろう未来を想像して、ため息をついたりしていたのである。
遺体の第一発見者の一人となったペルでさえ、4月1日(土)と4月3日(月)にはグルーバー家の方面がいつになく静まり返っていることに気づいていたという。
いわんや常にグルーバー家(ヴィクトリア)を注視していたシュリッテンバウアーが、その異変に気付かないはずがなかった。
彼はおそらく4月1日(土)の日中のうちに異変を察知したであろうし、4月2日(日)にはそれとなくグルーバー家を訪れ、南側の玄関のドアをノックしてみたりしたかもしれなかった。
もし玄関からグルーバー家の人間が出てくれば、
「ミサにも来なかったし、あまりにひと気がしなかったので、心配になって来てみた」
とでも釈明しようと思っていたところ、本当に人が出てこなかったのである。
訝しく思い調べてみると、納屋の西側のドアだけ鍵が掛かっていなかった。
そこから中に入ってみると、すぐ左手の飼料置き場へと通じる最初のドアが開いており、足を踏み入れて奥に進むと、畜舎へのドアの手前に4人の遺体が横たわっていた。
どの遺体も頭部や顔面部に重傷を負っていたが、シュリッテンバウアーにとってはそれが見慣れた4人—アンドレアスとその妻ツェツィーリア、ヴィクトリアとその娘ツェツィーリア—であることを見て取ることに難はなかった。
驚いたシュリッテンバウアーは、しかし法的には一応自分の息子ということになっている2歳のヨーゼフはどうなったかと気になり、畜舎を経由して家族の居住エリアのほうへと向かった。
台所に入るとその西隣の部屋のドアが開いており、そちらに目をやると女性が倒れていた。
シュリッテンバウアーにはそれが誰かはわからず、新しく雇ったメイドだろうかと思った。
台所から南側の廊下に出て、すぐ左手のドアを開けると、横並びになった大人用のベッドが二つと、乳母車が見えた。
乳母車の天井は裂けており、見ると中で幼児が死亡していた。
頭部が砕かれていたが、状況的にこれが2歳のヨーゼフであることは明らかだった。
ここまで確認した彼はふらつきながら元来たルートを引き返し、納屋西側のドアから外に出た。
顔面は蒼白だった。
自宅には直行せず、南側の魔女の森に行き、そこでしばらく横になっていたかもしれない。
警察に通報することも考えたが、すぐに思い直した。
勝手に屋内に侵入していた後ろめたさもあったし、集落内で過去に誰がグルーバー家と派手な諍いを起こし遺恨があったかといえば、他ならぬ自分なのである。
グルーバーが皆殺しにされたとなれば、状況的に自分にのみ嫌疑の目が向けられるのは火を見るよりも明らかだった。
どう対処するべきか、考えがまとまらないまま、その日は帰宅の途に就いた。
一方、ヒンターカイフェックからは殺人犯(たち)が逃走していた。
彼らはシュリッテンバウアーが南側の玄関をノックしたとき、慌てて屋根裏に上がり、しばらく息を潜めていたが、
シュリッテンバウアーが納屋西側のドアから外に出ていくのを見届け、「早く逃げなければ警察が来る」と思い、物色を中断して逃走したのだった。
結果的に紙幣はほぼすべて奪ったが、金貨や銀貨、宝石のたぐいについては、ヴィクトリアの寝室にあったものについては取りこぼしが生じた。
(他の場所にあった金貨や銀貨、宝石についてはすべて
われたかもしれない。)
帰宅したシュリッテンバウアーの気がかりの一つが、ヒンターカイフェックの家畜のことだった。
このまま誰も世話する者がいなければ、飢え渇いて死んでしまう。
農家の端くれとして、そこには彼もすぐに思い至った。
死んだ2歳のヨーゼフは一応法的には彼の息子ということになっていた。
「残された家畜などの資産について、自分も何かしらの権利を主張できるかもしれない・・・」
そんな考えも心に浮かんだ。
おそらくその日の夜のうちに、彼は家畜に餌を与えるべくヒンターカイフェックへと舞い戻った。
見ると家畜の状態は思いのほか良好だった。
腹をすかせた家畜が大声で鳴きわめいて事態が発覚するのを防ぐため、犯人たち自身が、3月31日(金)の夜や4月1日(日)には、ある程度の餌や水を与えていたのである。
彼は犬も含めた家畜に餌と水を与えると同時に、
納屋の4人の遺体を藁や戸板で覆ったり、メイド部屋の女性の遺体を布団で覆い、ヨーゼフが死んでいた乳母車の天井に赤い布を被せたりした。
また藁縄を納屋の屋根裏の梁に結び付けておいた。
これは不意に訪問者が訪れ、屋根裏に身を隠さなければならない状況が生じた場合に、この藁縄を伝って床に下り、納屋のドアから逃走できるようにするためだった。
できれば遺体を隠してしまいたかった。
遺体が見つかれば疑われるであろうシュリッテンバウアーとしては、一家は行方不明ということにして、事件はなかったことにしたかったのである。
そこで納屋の内か外かは不明ながら、そのあたりの一区画に、彼はショベルで遺体を埋める穴を掘ろうと試みたが、
大戦中に軍を1年で除隊になった50手前の彼にとっては6人分の穴を掘るなど容易なことではなく、着手してはみたものの、地面が固すぎたこともあって早々に諦めた。
(これが彼がのちに証言した、中途半端に掘られ藁をかぶせられた穴)
やむなく彼は次善の策をとることにした。
とりあえずは家畜を飢えさせないよう朝晩に面倒を見ながら、他の誰かが遺体を発見してくれるのを待つことにしたのである。
4月2日(日)の夜から4月4日(火)の早朝までをその調子で過ごした。
4月4日(火)の午前中に修理工がエンジン修理に訪れたことで、シュリッテンバウアーにとって「その時」が訪れた。
自分一人で行って単独の第一発見者になるのはよくない、まずは二人の息子を使いっ走り名目で現場に送ろう、
息子たちの帰宅後に自分一人で現場に行って遺体を見つけてしまっては、結局単独の第一発見者になるのと変わらないので、
自分が行くときは隣人のジーグルとペルを誘って3人で行こう、
とにかく第一発見者にはなりたくない、納屋内の(畜舎への)ドアの手前にある4遺体には気づかないふりをして戸板を踏み越えていこう、
そうすれば、後続のジーグルかペルのどちらかが遺体を発見して「第一発見者」になってくれるだろう・・・
遺体発見時における彼の不自然とも見える落ち着きぶりは、すでに事件の発生を知り、きたるべきその時に備えて心の準備ができていたことによる・・・と、一連の流れを妄想してはみたものの、
これはありそうもないかもしれない。
そもそもシュリッテンバウアーの前に犯人が現場に留まって何かをしていたのであれば、外部からの進入を拒むために、玄関と言わず納屋のドアと言わず鍵を掛けていた可能性が高いと思われるのであって、
そう楽々とシュリッテンバウアーが屋内に進入できるという状況そのものが想像しにくい。
(犯人が逃走した後にシュリッテンバウアーが訪れたのだとすれば話は別かもしれないが。)
また、仮にシュリッテンバウアーがたまたま屋内に進入でき、遺体を発見し、しかしながら単独で遺体の第一発見者になるのが嫌で、他の誰かに発見してもらいたいと思っていたのなら、
家畜への餌やりの作業が終わって帰宅する際には、玄関や納屋の戸に鍵を掛けず、訪問者らが自由に中に入れるようにしておくのではないかと思う。
むしろ南側の玄関や、畜舎、納屋の戸をすべて開け広げておいてもよいくらいだった。
しかし実際には4月4日に修理工がグルーバー家を訪れた時、納屋の西側のドア以外はすべて鍵が掛けられていたし、
同日夕刻に遺体の第一発見者らがグルーバー家を訪れた時も、納屋の西側のドアだけは鍵が掛かっていなかったが、
そこを入ってすぐ左手にある(納屋内の飼料置き場へと通じる)ドアには裏側からつっかえ棒がされ、遺棄現場への進入を拒んでいたのである。
つまり現場の施錠の状況は、「できれば訪問者たちに遺体を発見して欲しい」というものとは、ほぼ真逆だった。
状況は訪問者による進入を拒んでいたのである。
また、訪問者らに遺体を発見してほしかったにしては、納屋の4遺体に藁や戸板を被せていたというのも解せない。
餌やりの作業中に遺体が視界に入るのが嫌だったのかもしれないが、遺体を発見してほしいならむしろ何も被せず露出させておくべきだった。
(現に遺体発見時、納屋の4遺体は薄暗い状況の中で危うくスルーされかけた。ペルが発見したが、その前を歩いていたジーグルはスルーした。ジーグルは事件から30年後の再聴取の中で「発見したのは私だ」と言っているが、事件直後の聴取ではそうは言っていない。いずれにしても、納屋の4遺体は一見してそれとわからない程度には、藁や戸板で覆い隠されていた。)
もしシュリッテンバウアーが誰かに遺体を発見してほしかったのであれば、遺体には何も被せず露出させておき、
3人で納屋に進入するときには自分が先頭に立つのではなくジーグルかペルを先頭に立て、彼らのどちらかに発見させるべきだったが、
実際にはシュリッテンバウアーが先頭に立って進んだのだった。
また4月4日夕刻に3人が遺体を発見したときには、畜舎の牛が一頭、縄を離れて動き回っていたが、
もしシュリッテンバウアーがそれ以前から一人で密かに餌やりの作業を行っていたのであれば、牛が縄を離れたま
にはせず、繋ぎなおすぐらいのことはしたのではないかという気がする。
また家畜の餌やりをするついでに、グルーバー家と遺恨がある(と集落中で思われている)自分への嫌疑を逸らすために、
事件を金目当ての強盗の仕業に見せかけるべく、家じゅうを荒らし、金目の物をすべて持ち去るという程度の偽装工作は思いついただろうし、実行も可能だったと思われるのに、
実際の現場の状況は、金目当ての強盗の仕業というにしては若干微妙だった。
こうしたことから、シュリッテンバウアーが実は4月4日の夕刻の遺体発見以前から家族の死を知っていたと設定するのは、無理があるような気がする。
結局は、「よくわからない」というのが結論だった。
最後に、ケチだケチだと言われたグルーバー家について、別の見方もあったことを付記しておきたい。
一つは事件当時グレーベルンの西隣シュローベンハウゼンで少年時代を送っていたゲオルク・ケルナーという人物による証言で、
「1922年、事件のあったころからヒンターカイフェックのことはよく知っていた。
我々は当時13~14歳の少年で、森でキノコ狩りや薪集めをするときなどはよくヒンターカイフェックに食べ物を求めて立ち寄ったものだ。台所にもよく入れてもらったのを覚えている。ひもじい折には牛乳を貰ったりもしたものだった。
ヒンターカイフェックの人々はケチで知られているが、少なくとも私の記憶では、我々少年たちがそうして貰ったものに対して何か見返りを要求されたということはなかった。例えばジャガイモをすり潰すのを手伝うとか、そういったことを要求されたこともなかった。」
もう一つは事件当時グレーベルン住みだったヨーゼフ・シュリッテンロッヒャーという村人の証言、
「ヒンターカイフェックでは何度も働いたことがあるが、払いは良かったよ。ただし、出されるメシは不味かったがね」
総じて「ケチで人付き合いが悪い」と評されていたグルーバー家だったが、近親相姦での収監歴もあり、狭い集落内であることないこと噂を立てられ、人々の好奇の目に晒される中で、
ことさらに頑なに、人付き合いを避けるようになっていったという部分も、あるいはあったのではないだろうか。
おそらくは犯人に殴打され、右目のあたりを怪我していた番犬のスピッツについては、
事件後、ラークのガブリエル家のもとに引き取られたという話が後世には伝わっている。
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